
見えないのに、聞こえないのに――
どうして? どうなってるんだ?
ポケットに入るほどの、ちっちゃなちっちゃなイヤホンから、
まるで誰かが耳元で囁いているみたいに、
はっきりと流れてくるラジオの声。
けれど、辺りを見渡しても、誰もしゃべってなんかいない。
空気は静まり返っていて、風の音すらしない。
じゃあこの声は、一体どこからやってくるんだ?
ラジオの電波――それは空中を飛び交い、
イヤホンの奥の小さな装置に届いて、
それが音に変わって耳に伝わる。
でも、その電波というもの自体、
目にも見えなければ、耳でも聞こえない。
風みたいに肌で感じることすらない。
それでも、確かに存在していて、
今この瞬間も、私の周りを飛び交っているという。
その事実に気づいた瞬間、
私はついに「体で感じないもの」の存在を受け入れた。
世界には、まだ知らない仕組みが、
無数に隠れている――
目に見えず、音もせず、でもたしかに“ある”という不思議。
そのとき初めて、私は思った。
「見えないってことは、存在しないってことじゃないんだ」と。
コメント