
蒸気機関車は、ゆっくりと終着駅に近づいていた。
車輪のきしむ音、リズムよく鳴る汽笛――けれどその日、少年の心は別の音に耳を澄ませていた。
石炭をくべる釜戸の中に、ひときわ赤く輝く塊があった。
握りこぶしほどのその塊は、今にも溶けそうなほど真っ赤に燃え上がっている。
「これ、石じゃないか…?」
少年は気づいてしまった。石炭ではない。ただの石――だが、燃え盛る釜戸の中で、まるで命を宿したかのように熱を抱いていた。
「このまま燃やしてるだけなんて、つまらない」
そう思った瞬間、好奇心が勝った。
――水に入れたらどうなるんだろう?
少年は火鉢バサミを手に取り、慎重にその赤い石を釜戸から取り出す。
熱気が顔に押し寄せ、額には汗がにじんだ。
落とさないように、そっと、そっと。
敷地内の片隅にできた雨上がりの水たまりへと歩み寄り、
できるだけ水が跳ねないように、水面ぎりぎりまで石を近づける――
その瞬間だった。
「ジュワッ!!!」
轟音とともに蒸気が噴き出し、驚いて手を離してしまった。
ドボン! 石は水たまりに落ち、白い蒸気が一気に空へと立ちのぼった。
あまりにも一瞬の出来事。
目の前の水は、もう跡形もない。
そして、石は真っ二つに割れていたが、まだじんわりと熱を持っていた。
「今度は……水だけじゃなくて、泥だったらどうなる?」
少年の実験心は止まらない。
そこらの土をかき集め、水を加えて、泥水をこしらえる。
再び釜戸から新たな赤熱の石を取り出し、そっと泥水へ――
ポコッ。
泥水の表面に、丸い泡がひとつ浮かび上がり、
パンッと音を立てて弾けた。
そしてまた、ポコポコ……パンッ……
泡が次々に生まれ、消えてゆく。
蒸気が静かに上がり続け、まるで息をしているようだった。
その様子をじっと見つめながら、少年はにやりと笑った。
「やっぱり風呂焚きは最高だな」
ただの石ころが、燃え、音を立て、泡を作る――
小さな発見の連続が、彼の心を温めていた。
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