
釜戸の中は、まるで地獄の入り口のように真っ赤だった。
煮えたぎる炎が、底から上へと揺れ、そこにあるものすべてを赤く染めていた。
「この中に何を入れても、全部真っ赤になるのかな…?」
Akiraの頭にふと浮かんだその疑問が、次の遊びのきっかけになった。
火に勝てるもの――それは水だ。
「火の天敵っていえば、水だよな」
彼はコップに水をなみなみと注ぎ、勢いよく釜戸の口へ向かって投げ込んだ。
ジュワァーーッ!!
大きな音とともに、さっきまで燃え盛っていた赤が一瞬で黒に変わる。
灰が舞い上がり、釜戸の口からふわりと吹き出す様子は、まるで煙幕のようだった。
けれど――何かが足りない。
もっと長く、もっとおもしろく、火と遊べる方法はないだろうか?
Akiraはまた考えを巡らせた。
水を沸かすだけじゃ、つまらない。
「そうだ、蒸気機関車だ。あの音、あの勢い――あれを釜戸で再現できたら…!」
彼は空き缶に水を八分目まで入れ、しっかりと蓋をしめる。
ただし、蓋には一本の釘で小さな穴を開けておいた。
そこから蒸気が吹き出すように――完璧な設計だ。
火鉢バサミで缶を挟み、慎重に釜戸の中へ。
外側についた水が先に蒸発し、ジュウジュウと音を立てて消えていく。
やがて音が静まると、蓋の穴から白いものがふわりと現れた。
それはまるで線香の煙。
細く、ゆっくりと空へ向かって立ち上る。
しばらくすると、蒸気は勢いを増し、まっすぐに伸びる白い線となり、
ついには目に見えない速さとなって、シュウウウ…という噴射音が辺りに響き始めた。
その音を聞いた瞬間――
Akiraの目の前に広がったのは、もうただの風呂場じゃなかった。
石炭を燃やす巨大な釜戸、
轟音を響かせながら走る黒い車体。
彼は、終着駅のない蒸気機関車の機関士になっていたのだ。
熱と音と蒸気――
Akiraの想像力は、釜戸を、世界で一番小さな機関車へと変えていた。
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