AKIRA-7

あのうだるような夏も、いつの間にか遠ざかり、朝夕にはひんやりとした風が頬をなでる季節になった。
そんな頃になると、Akiraは風呂焚きが楽しみでならなかった。

風呂焚きの始まりは、いつだって「水を張る」ところから。
だけど、空っぽの湯船がいっぱいになるには、子どもの自分にとってあまりにも長い時間に感じた。
じっと風呂場で待つのも退屈で、結局テレビの前に座りながら時間をつぶしていたのだが――
この日は、気づけばうとうとと眠ってしまっていた。

目を覚ました時には、まるで夢の中から引き戻されたような感覚で、自分が何をしていたのか一瞬わからなかった。
でも、西の空に広がるオレンジ色の夕焼けを見た瞬間、Akiraの心に稲妻が走った。

「あ、風呂……水……!」

慌てて風呂場へ駆け込むと、湯船にはすでに水がたっぷり――というか、溢れていた。
蛇口を見れば、そこからはもう何も出ていない。

その瞬間、胸の奥に冷たいものが走った。

「……やばい」

我が家の水は、すべて井戸から汲み上げている。
つまり――全部使い切ってしまったのだ。断水状態。

あわてて裏手の井戸へ走ると、ポンプはまだ「ブゥーン」と唸り声を上げながら、空回りを続けていた。
Akiraはすぐにスイッチを切った。
「このまま回しっぱなしだったら、ポンプまで壊しちゃうところだった……」

焦りと後悔が押し寄せる。
このままじゃ、数時間後に誰かが帰ってきたとき、水が出ないことがバレる。
「怒られる……!」

その後の時間は、まるでジェットコースターのように長く感じた。
誰も帰ってこないことを祈りながら、何度も井戸のそばを行ったり来たり。

そして数時間後。
恐る恐るポンプのスイッチを再びオンにすると――
前とは違う、軽やかな音。
蛇口をひねれば、コポコポと音を立てて、水が……出た!

「……セーフ!!」

胸を撫で下ろし、ようやく風呂焚きを再開できた。
これこそが、Akiraの本当の楽しみだったのだ。

新聞紙と松葉を釜戸に入れ、マッチで火をつける。
次に小枝を重ね、炎が安定してきたら、さらに太めの薪を足していく。
パチパチという音が心地よく、釜戸の中で炎が踊る。

そこまでくれば、あとは準備しておいた薪を次々と投げ込むだけ。
真っ赤に燃える釜戸の中を覗き込むだけでも、胸が高鳴った。

でも――
風呂焚きの本当の面白さは、まだまだこれからなのだ。

続く

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